私は山が大好きです。しかし、山にいつでも行けるというものではありません。
  山に行けないときには、山に関わる本を読むことが好きです。
  この数十年に、たくさんの本を読みました。
  その本の中から、これは本当に素晴らしいという本を選りすぐり、「山の本棚」と名して、
  ご紹介いたします。
  もちろん有名なものばかりで、皆さんがご存じなものばかりかもしれません。
  しかし、一冊でも読んでいないものがありましたら、一読ください。超お薦めなベスト19を載せました。
  なお、これからも、私の中で、このベスト19を上回る本を発見した場合は、ページを更新いたします。

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書名(著者名) この本について一言 出版社
19 邂逅の山
   
(手塚宗求) 
車山 
 昭和31年夏、霧ヶ峰・車山の肩に、小さなコロボックル・ヒュッテという山小屋を手塚宗求は建てる。その山小屋の暗いランプの灯の下で綴られた草原にひそむ文学。美しく、それでいてリアルな文体。「吉野せい」が明るく書いたような心打つ文章。
 偶然購入した本。手塚宗求「邂逅の山」。
 なんと、我が尊敬する色川大吉氏が「今まで書いたものを一冊にまとめないか」という提案から本になったという。そういえば色川氏も山が好きだった。
 ……小さな山小屋(もちろん営業小屋である)で、家族3人で暮らす。満一歳を過ぎたばかりの幼子が脱腸で苦しむ。夜十時半、山を下りる。結局、病気は重くなく、深夜の病院を後にする。しかし、深夜、泊まる場所がない。そこで、彼はこう書く。

“山を愛するということばの意味や、山の中の暮らしや、そこでの家庭的な生活など、さしずめ今夜のような場合、眠るところも持たない自分の業を、改めてさまざまな不安をもって考えてみるのだった。”
 たぶん、雪の降る中、また、小屋に戻ったのであろう?

 今もコロボックル・ヒュッテはある。当時の面影は留めない。車で行けるらしい。
 しかし、読みながら
一度は行って、コーヒーでも飲んでみたいと思った。
平凡社
18 黒部の羆
   (真保裕一)
剱岳
 著者の『ホワイトアウト』は有名だが、私はそれほど好きでない。所詮、ダイハードの世界。面白いが、山の魅力に欠ける。
 そんな筆者が、渾身の力を込めて?書いた山の小説。「黒部の羆」。山の描写はなかなかに緊迫感が溢れている。「黒部の羆」は、「灰色の北壁」と言う本の中に集録。3編の短編の中の初めの作品。2編目の表題作「灰色の北壁」も面白いが、内容は山に対して誠実であろうとする男たちの物語。とても魅力的だが、短編すぎて何か物足りなさを感じるのは私だけだろうか。
 それに比べて、1編目の作品、「黒部の羆」は短編ながら濃い。山を愛する男の志が受け継がれていく場面を、心憎い演出で切り取って見せた一編。山の描写も無理がなく、映像が自然に伝わってくる。ラストシーンは一瞬あれっと思うはず。山の醍醐味がひしひしと伝わってくる真保裕一の初めての(私が思うに)傑作。
講談社
17 邂逅の森
   (熊谷達也)
山形から秋田に広がる神々のおわす山々
 故郷を追われた秋田のマタギ青年、松橋富治の波乱の人生。
「クマ」を書かせるとなかなか秀作が多い熊谷氏の作品。ヒグマを書いた処女作「ウエンカムイの爪」は、評判の割りに軽かった。吉村昭の我が国の羆害史上最悪の事件である”苫前三毛別事件”を基にした戦慄のドキュメント小説「羆嵐」のすごさには到底勝てなかった。
 しかし、この本はマタギとツキノワグマの戦い。所々、五木寛之の「青春の門」を彷彿とさせるムード、楽しさ。行き詰まる闘い。
 富治が様々な人に、獣に、自然に、神にめぐり合う・・・・・・まさに邂逅の森。一気に読める。
文芸春秋
16 天空への回廊
    (笹本稜平)
エベレスト
 冒険活劇と山岳サスペンスを織り交ぜたスケールの大きな作品。スーパー登山家、真木郷司の息詰まる冒険山岳小説。読みながら、酸素ってうまいなと思うと同時に、エベレストに行ってみたくなる。高山病は恐ろしいが、、ネパール側のベースキャンプからサウスコルあたりまでは行ってみたいと本気になって思ってしまう。
光文社
15 クライマーズ・ハイ
   (横山秀夫)
谷川岳(衝立岩)
 これほど興奮する小説に今までどれだけ出会ったろうか。手の汗で、本の紙がしわしわになってしまった。展開がスリリングで臨場感たっぷり。“興奮状態が極限に達し恐怖感がマヒしてしまう”“クライマーズ・ハイ”状態に読者をも同行させる。
 元新聞記者の横山秀夫の作品だけに、新聞記者の容赦ない激動感はリアル。その中のジレンマ。そして、衝立岩のオーバーハングを越える瞬間の恐れ。アブミの最上段に上がらないとハングは越せない……。そして、最後の爽やかな感動。
 山そのものシーンは少ないが、山好きでない方にもおすすめ。
文芸春秋
14 凍
   (沢木耕太郎)
ギャチュンカン北壁 
 世界トップレベルのクライマー山野井泰史・妙子夫婦のヒマラヤのギャチュンカン北壁登攀を扱ったノンフィクション小説「凍」。
 この手の小説にしては大変読みやすい。難しい専門用語を減らし、山を経験していない人でも想像できるように、ヒマラヤ山域への入山の仕方、登攀技術、装備、高山の特性等、平易な言葉で書いている。著者の沢木耕太郎の意図が分かるようだ。多くの人に高山の魅力、困難さ、そしてなぜ登山なのかを伝えたい、そんな気持ちが確かに伝わってくる。
 夫婦二人で難易度の極めて高いギャチュンカン(7965m)北壁登頂に挑み、手足や顔に壮絶な凍傷を負いながらも、精も根も使い果たして生還する。
 読後の一言感想。それは…「限界」という言葉を不用意につかってはいけないということだ。 登山者でなくても分かりやすい文体、淡々とした描写でありながら、ヒマラヤ登山の過酷さが迫ってくる。久しぶりに「山の本」の名作に出会った。
新潮社
13 白き嶺の男
   (谷甲州)
八ヶ岳等。
 無口だけれども行動力があり、我流ながらも天性の嗅覚を持った加藤。そこにはもう一人の加藤文太郎が見え隠れすると同時に、「山」の本来の魅力を思い出させてくれる。山と人間は一対一で向き合うものであることを。
 純粋な山岳小説。谷甲州の中でも最高傑作と思う。見方によってはこの本棚の第一位にしてもいいと思うほどの作品群。
 新田次郎文学賞受賞作。表題作の他、加藤と久住の出会いを描いた「沢の音」、ヒマラヤへの挑戦を描いた「アタック」「頂稜」など6編を収めた短編集。
 なお、左の作品以外に、ヒマラヤ7000m級の山への挑戦を描いた「ジャンキー・ジャンクション」も面白い。山岳幻想小説と言われているが。
集英社文庫
12 弥勒
   (篠田節子)
 架空の国、パスキム王国。(ネパール、ブータンをイメージ)
 意外なストーリー展開なので、内容には一切触れない。
 ともかく面白い。ネパールやブータン、その奥にあるものは?
講談社
11 岩壁よ おはよう
   (長谷川恒男)
 もちろんご存じ単独行の一匹狼、長谷川恒男の自伝。
15歳から26歳までの無名時代の長谷川の記録。なぜか親しみを覚える言葉が散らばっている。
「山は自己表現だ。自分が進まなければ決して登れない。主体性がなければ何もできない。」
中公文庫
10 神々の山嶺
   (夢枕獏)
カトマンズ、エベレスト
 冬期エベレスト南西壁の、無酸素単独登頂を目指す男。
 面白い。うーん。面白すぎるので?このページに入れるかどうか迷ったが、一気に読める上下巻。1997年発行。
集英社
9 劔岳〈点の記〉
   (新田次郎)
劔岳。
 どなたもご存じ新田小説。このページに新田次郎を入れない訳にはいかない。とはいえ、どれを入れるか悩んだ。2,30冊はここに入れたい。しかし、やはり一点挙げるとしたらこれか。ちなみに私は新田作品の山岳文学は全て読んでいる。
 測量官柴崎芳太郎の剣岳登頂物語。
 尚、新田次郎の作品は(山好きの人なら)、どれも面白いが、「孤高の人」「強力伝」「風雪の北鎌尾根」「神々の岩壁」「富士山頂」「芙蓉の人」「アラスカ物語」は特に傑作。
文春文庫
8 ボクの学校は山と川
   (矢口高雄)
秋田の山村
 東北の、山奥の、百姓家のガキ?の暮らし。
 ボク(矢口高雄)の小、中学校時代の二人の素晴らしい恩師を通して見た学校生活、山里生活をまとめたエッセイ。
 この本は、登山とは直接結びつかないが、山好きな人はきっと感動すると思います。失っていたものに気づきます。
講談社文庫
7 二人のチョモランマ
   (貫田宗男)
アイランドピーク、パルチャモ、チョモランマ
 大きな隊でなく、たった二人の登山隊。二上純一さんと貫田宗男さんの登山記録。軽いタッチで書かれているが、チョモランマ登頂後、二上さんは東壁に消えた。
 私がこの本に執着する理由は二つ。
 一つは、ヒマラヤは無理でもパルチャモ、アイランドピークは行けるかも。ロマンは広がる。
 もう一つは、私がキリマンジャロに登った折、途中で貫田さんにお会いし、2日間ともに行動したため。貫田さんはとても素晴らしい人です。
山と溪谷社
6 雲表の国
   (色川大吉)
チベット。
 悪路を乗り越え、高山病と闘いながら、チベットを6200キロにわたって踏査し、そこに生きる人の心、砂に埋もれた遺跡に熱い心を注ぐ。
 私が学生時代から尊敬する行動する歴史家、色川大吉氏の思索紀行。
 中でも、高山病で死んだ隊員の一人の鳥葬シーンは考えさせられる。
小学館
5 高熱隧道
   (吉村昭)
黒部川下廊下。
 黒部第三発電所。昭和11年8月着工、昭和15年11月完工。嶮岨な峡谷、岩盤最高温度165度という高熱地帯に、人間の力で、隧道を掘削した。山に真っ向から人間が対峙した記録文学。
 立山、後立山等を登るとき、この本を読むと読まないとでは、全く大地の味が変わる。
新潮文庫
4 恐るべき空白
  (アラン・ムーアヘッド)
オーストラリア内陸砂漠
 1860年、この空白地帯に14名の隊員からなる探検隊が派遣された。半年に及ぶ苦闘。
 山ではないが、世界で最も過酷な土地に挑み砂漠に消えた男たちの姿はノンフィクションだけに心に迫る。
ハヤカワ文庫
3 北壁の死闘
   (ボブ・ラングレー)
アイガー北壁
 久々に大傑作に出会った。といっても、この本自体は大変古いもの。文庫版初版は1987年である。私が読んだのが遅かったということ。そして、何と私の「山の本棚」ベスト3に堂々ランクイン。
 戦争を超え、「生」を超え、山がある。山のすごさとその描写力。そして、人間の魅力。
 私は舞台のアレッチ氷河を下った。そしてアイガーを見た。そのせいもあるかもしれない。しかし、最後まで文字通り手に汗を握り、読んだ。ぜひ一読していただきたい。エピローグも感動的。
創元推理文庫
2 冬のデナリ
   (西前四郎)
冬のデナリ
 私にはデナリ、つまりマッキンレー峰に登る力はありません。まして、冬のデナリ(マッキンレー)なんて。しかし、この本を読みながら、零下五十度、風速五十メートル、高度6000mの山を登ってしまうのです。ブリザードの中を彷徨えるのです。一緒に登った気になります。第三部はなくてもいいと思いますが、一部二部は読み応え十分です。素晴らしい感動、リアルな衝撃を与えてくれます。
 尊敬する植村直己氏も冬のデナリで帰らぬ人となりました。
 児童向け図書の扱いですが、高校生以上でないと理解できないでしょう。しかし、山屋には必ず気に入って頂けると思います。「会話や状況描写に創作手法を入れていますが」(西前氏)、西前氏本人が登攀し体験した実話です。なお、西前氏はこの本が出来上がる前、亡くなられました。
 第3キャンプまでは行ってみたい。そう思うのは私だけでしょうか?
福音館文庫
1 白きたおやかな峰
  (北杜夫)
ヒマラヤ山脈ディラン峰。
 長い準備の末に憧れのヒマラヤにやってきた10人の日本人登山隊。病気や悪天候などの障害を克服しながら、ディラン山頂に挑む。
 ドクターとして遠征隊に参加した北杜夫だから書けた最高傑作。文章も美しい。万が一読んでいない方がおられましたらぜひ一読を。きっと後悔はしません。

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